民主党・小沢一郎と福田康夫首相の「大連合」構想は、破談から小沢の辞任宣言、民主党幹部による留意、辞任撤回とめまぐるしく変転して、結局、もとのサヤにおさまった。
だが、このかんの経緯の不自然さ、小沢の言動の異様さは、ただごとではない。
最大の謎は、参院選に勝ち、安倍普三を首相の座からひきずりおろした小沢が、大連合などというヨタ話にのったことである。
二大政党制を主張してきた小沢は、打倒自民に、政治生命を賭してきた。
その豪腕小沢が、安易に、談合による連合にとびついたというのが、解せない。
いったん、辞任を口にして、翌日、前言をひるがえすなどということも、以前の小沢にはなかったことだ。
つまり、大連合談合から辞任撤回にいたる小沢の一連の言動には、まったく、整合性がないのだ。
読売新聞・渡邊恒夫社主がもちこんできた大連合の話が、そもそも、胡散臭い。
なにか、からくりがあると、にらんだのは、わたしだけではないだろう。
事実、これをある方向から読み解くと、一本の筋が見えてくる。
アメリカが、新テロ特措法を拒絶する小沢に業を煮やして、政治生命を断つぞ、と脅しをかけ、小沢がこれに屈したという構図である。
だが、ただの心変わりでは、民主党も国民も納得しない。
信念の政治家というイメージも地に堕ちる。
そこで、大連合という舞台で「国連の国際治安支援部隊(ISAF)に自衛隊が参加できる恒久法を制定するなら協力する(国連決議にもとづく国際治安支援部隊への自衛隊参加は憲法違反にあたらない)」という条件をしめして、テロ特措法容認のみちをひらき、一方、民主党にたいして、辞任声明、留任懇願をうけて辞任撤回という芝居を打ち、変節をカモフラージュした。
そういう推理が、十分、成り立つのである。
アメリカが、小沢に脅しをかけてくる要因は、いくつもあった。
一つは、新テロ特措法への硬直した拒絶反応。
もう一つは、シーファー米大使にたいする無礼な対応である。
小沢は、大使からの一回目の会談申し入れを拒否、二回目で応じたものの、大使を党本部に呼びつけて、五分間、立たせたまま待たせ、さらに別室でも待たせ、そのすがたをテレビカメラに映させて、シーファー大使をさらし者にした。
さらに、会談中も、テレビカメラを招き入れて、これ見よがしに、大使の申し入れを拒絶するじぶんのすがたを国民にアピールした。
このパフォーマンスで、同法延長に反対する民主党は、後戻りも、自民党との取引もできなくなった。
かつて、親米派だった小沢が、政権欲しさとはいえ、反米の急先鋒に立ち、いま、日本でもっとも期待されている政治家ということになれば、かつて、ロッキード事件で田中角栄を葬ったアメリカが、黙ってひっこむわけはない。
手始めが、産経新聞がリークした「隠し財産」疑惑である。
新聞記事によると、小沢の「隠しマンション」は10以上あり、そのうちの8つは、都内一等地だという。地元の岩手県盛岡駅前と宮城県仙台市の県庁近くにも、高級マンションをもっているが、「議員資産等報告書」には記載されていない。
この手のリークには、かならず、裏があるもので、多くは、検察情報である。
小沢をやるぞ、というシグナルは、このとき、すでにでていたのである。
これが、ジャブで、山田洋行事件の守屋元次官の国会喚問が必殺パンチの初弾だった。
さらに、宮崎元伸元専務逮捕、守屋次官の再喚問という連続パンチで、小沢は、窮地に立たされる。
返還したというもの、小沢は、山田洋行から、600万円の政治献金をうけている。
どういう因縁かといえば、山田洋行に、航空自衛隊OBで、防衛族の田村秀昭・元参院議員(国民新党副党首)を送り込んだのが、金丸信・小沢コンビだったのである。
その田村が「山田洋行」に、政界引退後、専用のハイヤーや秘書をつける役員待遇で採用するようはたらきかけていたことが一部の新聞にリークされた。
この時期、そんなニュースがとびだしてきたのは、偶然ではない。
ある筋が「政界ルートを解明しろ」という世論をおこすべく、操作しているのである。
宮崎元専務逮捕のあと、守屋元次官の再喚問という事態になれば「航空自衛隊次期輸送機CX一〇〇〇億円の受注」をめぐる防衛庁の贈収賄事件が、いよいよ、白日のもとにさらされることになる。
ターゲットは、政界ルートだろう。
久間元防衛庁長官は、ビビって、病院へ逃げ込んだ。だが、政界のターゲットは、久間でも額賀でもない。
かつて、小沢の側近だった田村秀昭である。
田村は、防衛大一期生で一九八九年一月、航空自衛隊幹部学校長(空将)で退官。同年七月の参院選で初当選して三期を務めた後、今年七月に引退したが、現在も国民新党副代表の地位にある。
田村の政界入りをバックアップしたのが、自民党元副総裁で防衛庁長官も務めた金丸信と小沢で、当時、田村の選挙資金を負担したのが山田洋行だった。
このとき、金丸がつくった「日本戦略研究センター」は、防衛商戦の"陰の司令塔"と呼ばれたほどで、防衛庁に、深く食いこんでいた。
政界の防衛利権は、ここからはじまったようなもので、90年代の役員には、自衛隊制服組OBの参院議員・元陸上幕僚長の永野茂門(98年引退)が理事長、田村秀昭(07年引退)が副理事長、伊藤忠相談役・瀬島龍三氏が顧問に就いた。
山田洋行も、当時、日戦研センターの法人会員だったが、当時はまだ零細企業だった。
同社が、驚異的に業績をのばしてゆくのは、防衛庁OBの宮崎元伸(93年から専務)が入社してからで、九二年には120億円、〇七年には350億円と売り上げをのばし、短時日で、業界屈指の防衛商社となった。
自衛隊の装備購入に絶大な影響力を発揮していた田村議員の肩入れがあったためで、総額2,200億円のAWACS(空中警戒管制機)のエンジン・メーカーであるGE(ジェネラル・エレクトリック社)の代理店契約を、実績のある極東貿易から奪いとるなどの辣腕を発揮した。
九三年に海上自衛隊が米製ホーバークラフト一隻(五〇三億円=輸送艦込み)を購入した際、納入業者が三井造船から山田洋行に移ったのも、田村議員の"天の声"があったからといわれる。
「田村は小沢の側近中の側近」(防衛省関係者)だったことから、小沢の天敵・野中広務元官房長官が、九三年十月の衆院予算委で「AWACS購入の決定に特定の政治家が関与している」と、当時の細川首相や中西啓介防衛長官を執拗に責め立てている。
山田洋行事件が、政界に飛び火したら、小沢も、うかうかしていられない。
今回の摘発は「山田洋行」と、同社から分離独立した「日本ミライズ」の商権争いや告訴合戦に端を発している。
といっても、喧嘩両成敗ではなく、捜査は、同社の宮崎元専務の背任と守屋次官の収賄を軸にすすめられており、日米共助法で、地検に協力している米司法局も、その線でうごいている。
現在、山田洋行の代理人に立って、守屋や宮崎を攻撃しているのは、「日米平和・文化交流協会」(理事・綿貫民輔/瓦力/久間章生/額賀福志郎/ウィリアム・コーエン/マイケル・アマコストら)の専務理事で、なおかつ、「安全保障議員協議会」(会長・瓦力/副会長・久間章生/額賀福志郎)の事務局長を務める秋山直紀である。
今回、検察は、山田洋行側に立っている秋山直紀や米司法局と足並みを揃えている。
捜査の矛先は、はじめから、宮崎・守屋コンビに絞られているのである。
ロッキード事件のときも、検察と米司法局が手をむすんで、田中角栄を追いつめた。
アメリカからの圧力は、アーミテージやラムズフェルドとも近い「日米平和・文化交流協会」を経由しているのではないか。
ちなみに、山田洋行事件がおきると、福田康夫、石破茂、額賀福志郎が、揃って、同会を脱会した。
どんな不都合があって、三人は、十月末日、あわてて同会を辞めたのであろうか。
ちなみに「原爆投下はしょうがない」という久間発言は、「日米平和・文化交流協会」の空気を反映したもので、それだけ、メンバーのメンタりティが、アメリカ寄りだったということになる。
「日米平和・文化交流協会」グループの久間や額賀、秋山直紀、検察、そして、米司法局が標的にしているのは、山田洋行ではなく、「日本ミライズ」の宮崎と守屋元次官である。
その視野のなかに、小沢がとらえられている。
脅しの手としては、上等である。
小沢がアメリカに楯突くと、防衛汚職の政界ルートを洗うぞ、というわけである。
金丸失脚後、「日戦研センター」をひきついだのは、たしかに、小沢だが、同センターはすでになく、小沢が、どの程度、防衛利権にからんでいたのかもわからない。
だが、田村元議員の線から、小沢を洗うことはできる。日米共助法は「相手国から協力を要請された場合、捜査に協力しなければならない」という義務項目がある。アメリカが小沢の捜査を検察に依頼した場合、検察は、アメリカ司法局から依頼という形で、小沢の調書をとれるのである。
アメリカは、国益に反すると見れば、戦争をしかけて、元首(パナマ・ノリエガ/イラク・フセイン)でも、拉致して、刑務所にぶちこむような国である。
アメリカが、海上自衛隊によるインド洋の給油を再開させるため、新テロ特措法に反対の小沢排除に、非常手段をもちいたとしても、けっして、ありえない話ではない。
ワシントン発の時事通信によると、ゲーツ米国防長官は、十一月一日の記者会見で、日本政府が海上自衛隊によるインド洋での給油活動を中断したことについて「比較的速やかに、願わくば、数週間以内に再開してほしい。数か月以上もかかってほしくない」とのべている。
福田首相も、八日、首相官邸で、来日したゲーツ米国防長官と会談して、インド洋における海上自衛隊の給油中断を平身低頭で詫び、給油再開にむけて、新テロ対策特別措置法案の成立に全力をあげると約束した。
わたしの考えでは、検察・米司法当局による「日本ミライズ」捜査と、国会での新テロ特措法案の審議は、並行してすすみ、小沢・民主党が折れなければ、防衛汚職の政界ルートが洗われることになるのでないか。
そうなると「田村ルート」のほか、山田洋行の顧問についている民主党の東祥三元議員へも司直の手がのびるかもしれない。
アメリカの意向がはたらいているかぎり、捜査の方向が「日米平和・文化交流協会」「安全保障議員協議会」の関係者へむくことはないだろうが、守屋の国会証言、あるいは、宮崎の調書しだいで、捜査が、山田洋行へ拡散される可能性もないではない。
とくに、守屋が、国会で爆弾宣言をすれば、その可能性が高まる。
その場合、捜査対象となるのは、政界ルートではなく、金融ルートである。
もともと、山田洋行の母体である山田グループは、不動産を中心としたコングロマリットで、社長の山田正志は、旧住友銀行・西川善文元頭取(現日本郵政社長)と組んで、RCC(債権回収機構)を一枚かませた債務トバシをやってきた男である。
そのダミーに使われたのが、山田洋行で、これに反発した宮崎専務が、同志をひきつれて「日本ミライズ」を設立、GE(CXエンジン)の契約を山田洋行から移した経緯がある。
宮崎は、じぶんが育て上げた「山田洋行」を債権処理のダミーに使われたことに反発したのである。
見方を変えると、背任は、山田洋行なのである。地検が解明しようとしている宮崎元専務の一億円の使途不明金も、三人の役員(宮崎専務・秋山常務ら)のボーナスで、これをプールして、新会社に投資したことが横領といえるか、疑わしい。
先のブログで、わたしは、小沢が反米を戦略にするなら、徹底的にやるべしと書いた。
これまで、経済摩擦はともかく、政治・外交分野で、アメリカに楯突いた政治家は一人もいなかったからで、反米も、日本という国が、大人になる試練となると思ったからである。
だが、その前に、検察=米司法局の手で、隠れていた巨悪が掘りだされることになるかもしれない。
今回は、第一回なので、全体像を描く必要があり、長文にわたった。
第二回から、端的に細部の検証をすすめていきたい。
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