2007年02月09日

「青山通り刺殺事件」と「真珠宮ビル乗っ取り事件」の深層(その4)

 H賢一の「反論」と一浚の「反・反論」

 われわれは、賢一の反論供述書が、カバナトワン地方検察局に提出される予定になっていた一月九日をまった。反論は、フィリピン警察から「誘拐・拉致」の疑いで起訴された賢一にあたえられる異議申し立てで、それによって、起訴か不起訴かが決定する。
 ところが、一月九日に反論宣誓供述書は提出されず、二十三日まで延長された。
 後藤という賢一の代理人が不起訴工作をしていることは、すでにのべた。
 賢一の「反論供述」待っているわれわれのもとに、後藤がおこなっている、検事や入管にたいする画策情報がはいってきた。
 入管局や国家捜査局に、さまざまなコネクションを使って不起訴工作をしているものの、思うような反応が得られないらしい。後藤は友人に「何かおかしい。いつもと違う」とぼやいていたという。
"袖の下"がまかりとおるフィリピンでは、コネやカネで、法的措置に手心がくわえられることが、すこしもめずらしくない。入管手続きも例外ではなく、なかでも、曲者が、強制送還である。
 フィリピンの入管法では、局長と三人の副局長が署名した略式送還命令書だけで、どんな犯罪をおかした外国人容疑者でも、強制送還することができる。強制送還が、事実上の無罪放免になっているのである。
 後藤らは、検事局や入管にはたらきかけて起訴を見送らせ、強制送還で、賢一を日本へ送り返そうというのであろう。
 昨年の十一月、フィリピン政権与党のバーバス下院議員が、二回にわたって「出入国管理局の上層部がワイロをうけとって、外国人の犯罪者を海外に逃がしている」と、フェルナンデス入管局長と三人の副局長の計四人を名指しして、略式送還命令書をめぐるワイロの実態を告発した。海外へ逃がす、というのは、強制送還のことである。
 入管の幹部は「事実無根だが、調査して、議会に報告する」と答えている。だが、フィリピン人で、この答弁をまにうけた者は、一人もいないだろう。

 さて、カバナタウン地方検察局に提出された賢一の「反論供述書」である。
 二十三日、同検察局に届けられた「誘拐・拉致」容疑にたいする賢一側の反論供述書は五ページで、最後に「上記の反論供述は、宣誓供述書のごく一部であり、引き続き、反論宣誓供述書を提出する権利を保留する」とある。
 これにたいして、一月三十一日、一浚の弁護人(フィリピン人)は、10項目にわたる宣誓供述書を同地方検事局に提出した。
 賢一の反論と、一浚側からの反・反論を併記してみた。

賢一の反論
「一浚はアルコール中毒患者で、酔払い運転で人身事故をおこし、刑務所に収監された」
一浚の反・反論
「交通刑務所、長谷川病院、フィリピンで自由を失っていた計六年半に、一滴のアルコールも口にしていない者が、どうしてアルコール中毒なのか。アルコール中毒症という医師の診断書はどこにも存在しない。賢一が、本人に秘匿して、裁判所に提出した保護者選任申立書にも『アルコール依存症』としか書かれていない」
賢一の反論
「一浚は精神病を患っており、長谷川病院(精神病院)に二年間入院した」
一浚の反・反論
「長谷川病院への入院は『身の安全をまもるため』という、フィリピンへつれてきたのと同じ理由からで、薬物投与以外、精神病の治療をうけたことはない」
賢一の反論
「フィリピンへ来たのは、一浚の自発的な意思である」
一浚の反・反論
「じぶんの意思でフィリピンへ来たというなら、わたしは正気で、賢一もわたしの意思を尊重したことになる。精神病だったという供述と矛盾する」
賢一の反論
「当該訴訟は、一浚の本心ではなく、あるグループの誘導である」
「あるグループとは、一浚の義弟、弁護士、および、かれらの援助者である」
「かれらの目的は、一浚が所有するビル会社の株式を譲りうけることである」
一浚の反・反論
「あるグループというのは、唯一の肉親であり、わたしの安全や健康を願っている実妹の依頼をうけ、わたしの保護にあたっている肉親(義弟)、弁護士とその協力者である」
「わたしが所有するビル会社の株式を奪おうとしているのは、鴛淵家の財産を奪い、わたしを拉致して人権を蹂躙した賢一らで、わたしの肉親やわたしを援助している人々ではない」
賢一の反論
「一浚が服用していた薬物は、賄い婦があたえたもので、賢一は関与していない」
一浚の反・反論
「長谷川病院を退院して、フィリピンにつれだされたあとも、ひきつづき、長谷川病院であたえられたものと同じと思われる薬物をのむように強要された」
「わたしが服用させられていた薬物の処方箋は、賢一が所持し、薬物を処方したのは、賢一の指示をうけた医師である。賄い婦は、わたしに薬物をのませるように、命じられたにすぎない」(賢一逮捕の際、所持品のなかから処方箋を回収したフィリピン警察の担当者は「こんなものを長期間のんでいると、頭がおかしくなる」と証言している)

 養子縁組についても、賢一と一浚の見解は、対立している。
 交通刑務所を出所するとき、賢一やKから、「身元引受人がいなければ出所できないので、賢一を一浚の養子として縁組みしたい」という申し出があったが、一浚は、了解していない。その後、一浚の収監中に手続きがすすめられたが、一浚は、まったく気がついていなかった。
 ちなみに、この養子縁組の前に、七十六歳になる鴛淵千枝とKの婚姻入籍が計画されていたという。Kが既婚者だったためこの計画が流れ、代案として、かれらは、賢一と一浚の養子縁組を考えついたものであろう。

 一浚が検察局に提出した反論書は、30ページにわたって、賢一の供述書の虚構をことごとく論破している。
 フィリピンの刑法では、最終反論供述書が提出されてから、担当検事15日、上席検事15日、計30日間の猶予期間を経たのち、起訴か不起訴がきまる。賢一の最終反論供述書と一浚の宣誓供述書が出揃った以上、後は、担当検事や上席検事が、どう評定するかである。
 反論供述書による攻防は、法律に添った表面的なたたかいである。
 一方、われわれにつうじている情報屋から、後藤らがイミグレーションや捜査局にはたらきかけている裏側の情報も入ってくる。
 一浚が宣誓供述書を提出(一月三十一日)した日の夕方、井上に「後藤らがイミグレーションや国家捜査局のルートの工作を諦め、政治関係者に手を打ったらしい」という情報がはいってきた。わたしは井上にたずねた。
「政治関係者とは、国会議員か?」
「国会議員ではなく、地方の有力者のようです」
「地方の有力者?」
「地元の市長とか。地方検事の就任には、地元の市長の同意書のようなものが必要になります。その関係で、どこでも、市長と検事は、昵懇の仲です」
「ところで井上君、カバトワンの市長は、われわれが初めて一浚と会ったとき、地元警察を紹介してくれた人ではないのか」
「そうです、マラカニアン(政府)から手をまわして、地元の警察に便宜を計ってくれたひとです」
「それなら、この事件について、よく理解しているはずだ」
「念には念を入れよ、です。政府のHと連絡をとってみましょう」
 井上とわたしは、突如としてあらわれた市長対策を練らねばならなかった。
「ところで井上君、我々の弁護士(フィリピン人)は何といっているの」
「賢一側は猛烈な勢いで不起訴工作をしているが、一浚側は、すでに反論供述書で、賢一側の嘘で塗られた供述書は論破できている、心配するな、といっています」
「われわれは、油断なく、あらゆる状況を想定して、打つべき手を打ってきたが、油断は禁物だ」
 ちょうどそのとき、耳よりの情報が入ってきた。
賢一がイミグレーションに逮捕された折、日本大使館の領事がとんできて、フィリピン入管局とかけあい、賢一を四日間だけ釈放させた上、われわれを誘拐犯として、カバナタウン検事局に告訴させようとした事実は、すでにのべたとおりである。(この工作は検事局が却下した)
 このとき、賢一は、賄い婦の長女にたいして、猫なで声や泣き落としで告訴工作の協力をもとめ、応じないとみるや、暴力的な言動におよび、挙げ句に「こんなことになるのだったら、計画どおり、殺しておけばよかった」と口走ったという。
 母親から情報をえたわれわれは、翌日、カバナトワンへでかけ、長女から、賢一の言動のすべてを聞きだし、松下弁護士は、長女へのインタビューをすべてビデオに納めた。
 このビデオテープは、今後、フィリピンにおける「一浚の誘拐・監禁事件」ばかりではなく、殺人事件までおこしている東京の「真珠宮ビル乗っ取り事件」の民事裁判で有力な証拠となるのではないだろうか。
 われわれが、必要な情報入手すべく、とびまわっていた二月一日の夜、長い交友関係をもっていた政府高官のAから食事の誘いがあった。
 わたしは、こんどの事件の概要を話し、アドバイスをもとめた。Aの返答はこうだった。
「外国人同士の争いは、フィリピン当局にとって、迷惑この上ない。裁判は、じぶんの国でやってもらいたいものだ」
「しかし、監禁場所がフィリピンで、入管法違反問題は、フィリピン国の管轄ではないか」
「それはそうだが、裁判は、わが国の税金でおこなわれる」
それから、こう、ことばを継いだ。
「当事者の片方が、外国人旅行者でなく、わが国の永住権をもっていれば、フィリピンの捜査当局も、公判における取扱いも、もっと親身になるのではないか」
 われわれは、さっそく、一浚にAのアドバイスをつたえた。一浚は乗り気だった。
「日本に帰っても、一人では生活できない。いままで面倒をみてくれた賄い婦が、一生、世話をすると約束してくれている。フィリピンで、残りの人生を送りたい。永住権が取れるなら、そんなうれしいことはない」
 井上と義弟は、松下弁護士に相談して、一浚の永住権申請の手続を開始した。
 打つべき手は、すべて、打った。後は、フィリピン当局の判断を待つばかりである。

「青山通り刺殺事件」と「真珠宮ビル乗っ取り事件」の深層(その5)へ続く


posted by 山本峯章 at 05:08| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
黒色は明るい色に愛しての、あこがれられることを渇望するので、女性の気質の色を備えます。外在し何分(か)の子供っぽさを持っていて、内在して寂しい落ち着いている色。黒色ブランドコピーは1種の理性の熱烈さで、まっすぐな赤色に比べて不明瞭です、ためらう色、うろうろする情熱、腹の中のあでやかさ。珍しい人の使うのが美しいことができる色、永遠に舞台の色から退出することはでき(ありえ)なくて、出場するのとは主役の色で、多情で冷酷な色。憂鬱な米の、悲観的な嫌ではないだ色があります。ブランドコピー
Posted by ブランドコピー at 2014年02月08日 15:32
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